June 3, 2020

東京メトロ様の発券機と連動により自動発券

この記事はトラベルボイスから転記したものです。

タビナカ市場を狙った、新しいサービスやソリューションが数多く登場している。しかしながら、スマホで情報収集や予約をする今の旅行者が日本国内を旅行するときに直面する不便さは、解消されたとはいえない。インバウンド旅行者にも国内旅行者にとっても、その不便さのひとつが、交通機関や施設のチケット流通だ。Eチケット化が進んでいないために、いまだに実券(紙など物理的なチケット)販売や引き換えで対応している事業者が多い。

この課題を解決するために、2020年1月に設立されたのがリンクティビティ(Linktivity)だ。2020年3月から国内外の旅行者に対応する新サービスで本格稼働を始めた。リンクティビティによると、Eチケット化によって、旅行者はもちろん、サプライヤーと販売業者にも大きなメリットがあるという。「シームレスにサプライヤーと国内外の販売業者、旅行者を結ぶ」というBtoBサービスの中身とは?

QRコードのEチケットでサプライヤー、旅行会社、旅行者を結ぶ

タビナカ体験予約サイト「ベルトラ」の新規事業として立ち上げられたリンクティビティは、交通機関や施設のチケットなどを提供する日本のサプライヤーと、販売元となる国内外の旅行会社やOTAを結ぶプラットフォーム。同社代表取締役CEOの孔成龍氏は「消費者はシームレスな購入や利用を求めているが、旅行業界のシステム化は遅れている。その消費者ニーズと旅行業界をテクノロジーでつなぐことができれば、いいサービスが提供できると考えた」と設立の背景を説明する。

日本のタビナカを担う観光素材サプライヤーのオンライン対応は遅い。特にインバウンドでは、訪日外国人向けの鉄道チケットは、いまだに実券のケースが多く、流通は実券の郵送または日本に到着してからの実券との引き換えなど、古典的なスタイルが主流だ。孔氏は「オフラインの実券では手元に届くまでに時間がかかる。予約の間際化が進むなか、ユーザーのニーズに対応できない。また、OTAの立場からすると、オペレーションも、人手も、コストもかかる」と現状の課題を指摘する。

リンクティビティはQRコードの活用によって、サプライヤー、販売する旅行会社、そして旅行者を結びつけることで、その課題を解決する。旅行者は、OTAなどのサイトでチケットを購入すると同時にQRコードを取得。交通機関の企画チケットの場合、そのQRコードを使って、実券との引き換えだけでなく、駅券売機からの発券またはそのまま改札自動入場することができるようにした。

外国人旅行者向けのチケットでは、訪日後に電子バウチャーを実券に引き換えるために空港や一部主要駅などのチケット交換場所に立ち寄る必要がなくなり、スムーズな利用が可能になるのだ。

QRコードでタビナカ事業者のEチケット化を可能に。

システム連携で販売管理や販路拡大、カスタマイズにも対応

リンクティビティの強みは、QRコードによるeチケット化だけではなく、オンライン・コネクティビティにもある。サプライヤーは、商品の在庫管理、販路の管理、代金管理、決済などのほか、旅行会社などの販売事業者や国地域別の流通レポートをリアルタイムで取得することができる。そのためサプライヤーは同レポートを参考に、最新の市場動向にあわせたマーケティング戦略の策定と、地域の実情に沿ったサービス改善ができるようになるのだ。

孔氏は「流通が複雑になるなか、サプライヤーにとって販売管理が難しくなっている。このシステムを利用すれば、それを一元管理することができる。また、システム連携によって販路が短期間で増え、販路の分散にもつながり、リスク回避にもなる」とサプライヤー側のメリットを強調。今後は、契約や申し込みのオンライン化、多言語のカスタマーサポートなども整備していく考えも示す。

一方、販売側には、3ステップ程度で、どのサプライヤーの予約(仕入れ)も簡単に操作できる予約管理画面を提供。リンクティビティとシステム連携することで、シームレスなQRコードの発行と引換管理を行なうことが可能だ。孔氏は「精算や決済などもパッケージ化して提供している。中小の旅行会社にも使い勝手のいいシステムになっている」とアピールする。インバウンド対応のソリューションのため、情報の多言語化(日本語、英語、中国語簡体字と繁体字、韓国語)も実現している。

リンクティビティは国内サプライヤーと国内外の旅行会社の課題を解決して両者をつなぐサービス

カスタマイズについても柔軟に対応する。「標準化した提案をしていき、連動する部分はカスタマイズあるいはローカライゼーションを進める。海外の企業の場合は日本と商慣習も流通の仕組みも異なる。リンクティビティは海外の旅行会社が何を求めているのか分かっている」と孔氏。

日本のサプライヤーと海外の販売会社が販売提携に至るまでには、オンライン化以外の部分でも大きな壁があった。同社の開発チームはすべて日本在住の長い外国人。その視点から、連携に必要だと思う部分の改善をしている。いわば、リンクティビティのプラットフォームには販売システムだけではなく、国内サプライヤーが海外で販売するためのソリューションも含まれているのだ。

サプライヤーと一緒に販売拡大を、将来はツアーや体験のeチケット化も

システムの開発は会社設立の2年前ほどから始めた。ローンチに向けては、近畿日本鉄道(近鉄)と「KINTESTU RAIL PASS」の販売で共同歩調をとった。2018年10月から販売を開始し、翌年には前年比で30%増になったという。

その後は「ほぼクチコミで」(孔氏)、他社でも採用が広がった。西武鉄道、南海電気鉄道(南海電鉄)、阪急阪神ホールディングス、大阪地下鉄(Osaka Metro)のほか、2020年3月には東京メトロと都営地下鉄の地下鉄乗り放題乗車券「Tokyo Subway Ticket」でもサービスを開始。東京メトロとは、直販できるソリューションもリリースする予定だ。

交通機関のほかにも、大阪観光局とは「大阪周遊パス(OSAKA AMAZING PASS)」、スルッとKANSAIの「KANSAI THRU PASS」で連携。東京スカイツリー、八景島シーパラダイスなどの観光施設の導入事例も増えてきた。国内向けのEチケット商品の契約施設も増え、販売先となる国内旅行会社の営業も強化しているところだ。現在のところ、サプライヤーは鉄道、バス、観光施設など約15社。OTAや国内外の旅行会社は200社以上に拡大している。

現在の導入サプライヤーは鉄道、バス、観光施設など約15社。販売事業者は国内外200社以上

リンクティビティの収益モデルはシステム利用料と販売コミッション。開発費などランニングコストの請求はない。孔氏は「サプライヤーと一緒に営業をしながら、一緒に販売を増やしていく考え方」と、同社のビジネススタンスを強調する。だからこそ、契約会社の販売拡大につながるサービス提供に注力するのだ。

孔氏は、リンクティビティが重視する点として「コネクト」「改善」「イノベーション」を挙げる。コネクトとは、サプライヤーと販売を結ぶビジネスモデルのこと。改善では、たとえばコンサルティングやアドバイスなどによって、常に顧客が求めるニーズを把握し、そのニーズを解決していく。イノベーションでは、テクノロジーと市場動向をマッチングさせ、新しいタビナカ体験の販売に貢献していく。

サプライヤー側では、まずは訪日外国人のニーズの高い鉄道チケットから事業を始めたが、さらに他社の取扱も増やしていく計画。同時に、鉄道の利用客が訪問先で利用するツアーやタビナカ体験のeチケット化を進めていきたい考えだ。一方、販売側の当面の目標は2020年中に1000社。特に欧米のOTAや旅行会社の数を増やしていく。

リンクティビティ代表取締役CEOの孔成龍氏

さらに将来に向けては、プラットフォーム以外での「コネクト」も視野に入れる。たとえば、「移動は地方活性化にも関わること。鉄道のeチケット化で訪問者が増えれば、沿線地域も活気づく」と孔氏。南海鉄道とは和歌山、近鉄とは伊勢志摩のプロモーションを一緒に展開していくことも検討しているという。

旅行者の旅のスタイルは変化しており、タビナカでは間際予約が増えている。そのためには、「手作業の必要な実券対応では間にあわず、オンライン化は必須。旅行業界もそれにあわせて変わっていく必要がある」と孔氏。オンライン化によって、天候等の条件が前売販売を左右するような施設や体験では、利用後に精算を可能にする予約も提供したい考えだ。刻々と変化するタビナカ市場で、BtoBをテクノロジーでコネクトするリンクティビティは存在感を高めている。